サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】廣田美穂アーティスト・イン・レジデンス(塩田公民館・リサイタル)

みる・きく
会場
サントミューゼ

ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.23

廣田美穂 ソプラノコンサート(ピアノ:岩崎香織)

2016年9月1日(木) 開演19:00
上田市塩田公民館大ホール

 

プログラム
J・トゥリーナ:歌曲集「歌のかたちの詩」
1. 献呈 2. けっして忘れないで 3. 唄 4. 2つの恐れ 5. 恋に夢中
越谷達之助:初恋
高田三郎:くちなし
山田耕筰:赤とんぼ
源田俊一郎編:唱歌メドレー「ふるさとの四季」より
A.カタラーニ:歌劇「ワリー」より“さようなら、ふるさとの家よ”
L.アルディーティ:くちづけ
赤ちゃん、小学生から年配の方まで、いつもさまざまな年代が集まる「ワンコイン 地域ふれあいコンサート」も今回で23回目。

この日はラジオ局の取材も入りました。

開場直前まで目の前で行われた調律の様子を眺めながら、開演を待ちます。

 

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盛大な拍手とともに颯爽と登場したソプラノ歌手廣田美穂さんとピアニストの岩崎香織さん。

ふだんは挨拶のみして1曲目を演奏しますが、この日はトークから始まりました。

 

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「オペラはイタリア語の曲が多いですが、今日は私が好きなスペイン語曲から演奏します。スペイン語曲は色合いが変わって、湧き出る土の匂いを感じます。曲や言葉の想いに強く憧れを持ちます。これから披露する歌曲集「唄のかたちの詩」の1曲目はピアノソロから始まります。しばらく私は歌いませんが、歌詞を忘れてしまったからではありません(笑)。それでは、お聴きください」

 

廣田さんのトークに会場の空気が和む中、岩崎さんのピアノソロから幕開けしました。

5つの歌曲はそれぞれ愛の歌ですが、「死ぬ前に告白したい。憎しみ続けた人は許すが、愛した人は許さない」と少し怖さを感じるものから、情熱的に愛を歌うものまで、その形はさまざま。

 

 

2曲目からは日本語曲となり、廣田さんが「石川啄木の歌集の中で、夏の匂いがする曲を選びました」と越谷達之助の「初恋」をはじめ、高田三郎の「くちなし」、山田耕筰の「赤とんぼ」、源俊一郎編の唱歌メドレー「ふるさとの四季」と4曲演奏。

曲が作られた年代が古いため、歌う時に感情を込めるのが難しい面があると話しながらも、歌っていると「あらためて、私は日本人だ」と感じるそうです。

 

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「聴いている時も、歌っている時も日本人だと感じる唱歌などは、これからも歌い続けていきたいです。皆さんもぜひ、子どもやお孫さんに歌ってあげてください」

 

その後は「イタリアのオペラを歌います」と、結婚を反対されたワリーが故郷への惜別を歌ったA.カタラーニの歌劇「ワリー」より“さようなら、ふるさとの家よ”へ。
プログラムの最後に選んだのはL.アルディーティの「くちづけ」で、「皆さんにたくさんの口づけを捧げたいと思います」と廣田さん。

リズミカルで軽やか、かつ伸びやかな廣田さんのソプラノの声がとてもマッチした曲で、歌い上げた瞬間には客席から「ブラヴォー!」との声援が。

 

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アーティストと観客が空間をともにしてコンサートを作り上げていくように感じられた瞬間でした。

 

アンコールには武満徹の「小さな空」、スペイン民謡「エル・ビート」で締めくくり、笑顔と拍手の中コンサートを終えました。

 

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廣田美穂 ソプラノリサイタル

2016年9月10日(土)
開演14:00
サントミューゼ小ホール

プログラム
プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より“私のお父さん”
プッチーニ:そして小鳥は
プッチーニ:太陽と愛
プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」より“ある晴れた日に”
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲(ピアノソロ)
ドニゼッティ:歌劇「アンナ・ボレーナ」より“私の生まれたあのお城”
ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より“ありがとう、友よ”

ラヴェル:ハバネラ形式によるヴォカリーズ
トゥリーナ:歌曲集「歌のかたちの詩」
1. 献呈 2. けっして忘れないで 3. 唄 4. 2つの恐れ 5. 恋に夢中
シェーンベルグ:ミュージカル「レ・ミゼラブル」より“夢やぶれて”
木下牧子:おんがく
平井康三郎:うぬぼれ鏡
團伊玖磨:ひぐらし
源田俊一郎 編:ふるさとの四季
2016年のサントミューゼ・レジデント・アーティストの1人として、6月から4回にわたり上田市内の小学校や高校、公民館でアウトリーチ活動を行ったソプラノ歌手の廣田美穂さんと、ピアニストの岩崎香織さん。

その締めくくりとして、リサイタルが開かれました。

 

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1曲目は、プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」より“私のお父さん”を演奏。

今までアウトリーチ活動でも美声を響かせてきましたが、やはりホールの響きは格別。

特に高音の伸びやかさや大きさはとても美しく客席に届きます。

流れるような旋律も美しく、オペラ初心者でも聴いたことがある人が多い、親しみやすい曲です。

 

「今日は二部構成です。一部ではイタリアの作品を中心に、二部ではフランス、スペイン、日本とさまざまな国の曲を演奏します。この後もプッチーニで「そして小鳥は」「太陽と愛」の2曲をつづけて演奏します。「そして小鳥は」はイタリアの子守唄です。「太陽と愛」は、後にオペラ「ラ・ボエーム」第3幕でメロディが使われたことでも知られています」

そう解説した後、陽気なリズムで「E l’uccellino~」と「そして小鳥は」へ。

 

一般的にイメージする子守唄は短調で静かなものが多いですが、さすがは陽気なイメージが強いイタリアだけに、「子守唄も明るくてお国柄なのかなと。またプッチーニの人柄が感じ取れる曲だと思います」と廣田さん。

 

「太陽と愛」は、燦々と降り注ぐ太陽のように温かく、軽やかな伴奏からゆったりとしたテンポで表情豊かに歌っていきます。

例え外国語曲で歌詞は分からなくても、廣田さんの歌う姿からどんな場面なのか想像をしながら聴く楽しみを感じました。

 

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歌劇「蝶々夫人」より“ある晴れた日に”は、前述の7月に城南公民館で開催したアナリーゼ(楽曲分析)の題材にした作品です。

プッチーニが、ロンドンで上演されていた長崎を舞台にした戯曲「蝶々夫人」を観たのがきっかけでオペラ化し、随所に日本の音楽を取り入れました。

そういった廣田さんの話をメモする熱心な人もいて、聴くだけではなく、学びがあるリサイタルになっているのが伺い知れます。

 

 

マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲は、ピアニスト岩崎香織さんのピアノソロ。

静けさに満ちたこの曲は、岩崎さんの凛とした姿と重なり、とても美しく感じました。

 

その後はプッチーニの時代からさかのぼって実話を元にした2曲、ドニゼッティの歌劇「アンナ・ボレーナ」より“私の生まれたあのお城”と、ヴェルディの歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より“ありがとう、友よ”を演奏して第一幕は終了。

 

第二幕では衣装チェンジをして、さらに華やかな雰囲気で登場。

休憩で人が帰ってしまうか心配したとジョークを交えて場を和ませてから、ラヴェルのハバネラ形式によるヴォカリーズを解説。

 

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「外国語曲を披露する時には字幕を出したりしますが、今日は無いので大変ですよね。これからは、安心してください。まずは母音のみで声を器楽のようにして歌うヴォカリーゼから演奏します。ヴォカリーゼで有名なのはラフマニノフですが、歌い手殺しでとても難しい。今回はラヴェルの作品ですが、これもまた学生時代は難しくて上手に歌えませんでした。それでも今は大好きです。それは歌詞が無い分、音楽を素直に受け止めてもらえるからです。声が持つ美しさや魅力を感じてください」

 

母音のみで歌われるこの楽曲から、「体そのものが楽器」という声楽の魅力が存分に伝わりました。

 

つづいて、ワンコイン地域ふれあいコンサートなどでも演奏されたトゥリーナの歌曲集「歌のかたちの詩」、そしてミュージカル「レ・ミゼラブル」より“夢やぶれて”、アウトリーチ活動中に必ず歌った、まどみちお作詞の「おんがく」を演奏。

音楽はどう聴くのか、感じるのか。

耳だけではなく、五感を使って、型にはまらず感じ取ってほしいという想いからセレクトしたと廣田さん。

 

 

 

その後は雰囲気を変えて、「ふだんはオペラの舞台に立っているので、その雰囲気を感じてほしい」と、平井康三郎の「うぬぼれ鏡」へ。

 

手鏡を持ちながら歌い、演じている姿は、チャーミングであったり、少し滑稽であったり、もの悲しく感じたりとさまざまな感情を得ることができました。

 

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廣田さんが好きだという團伊玖磨の「ひぐらし」を経て、最後の曲に選んだのは源田俊一郎の「ふるさとの四季」。

「上田の風景を思い浮かべながら、歌います」と話してから歌い始めました。そこには四季がはっきりしている日本ならではの春夏秋冬の風景がちりばめられていました。

一緒にリズムを取りながら聴く人もいて、廣田さんと同じように上田市の風景を思い浮かべた人もいたのではないでしょうか。
アンコールを含めて、全16曲という充実のプログラム。

終了後には廣田さん、岩崎さん自ら観客を見送りました。

なかにはアウトリーチ活動で撮影した写真を現像してプレゼントする人や、東京からわざわざ来たという熱心なファンの姿も。

廣田さんたちも一人ひとりと丁寧に話したり、記念撮影をしながら感想を聞くなど楽しんでいる様子でした。

 

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さて、リサイタル終了後の楽屋では、サントミューゼのスタッフたちが集まってヒソヒソと打合せ。

実はリサイタル翌々日の12日が岩崎さんの誕生日だと知ったスタッフは、サプライズを用意して待ち構えていました。
着替えを終えて出てきた廣田さんと岩崎さんに、インタビューがあると別室に招いたところで、ハッピーバースデーを歌い出したスタッフたち。

突然のことに最初は驚きと戸惑いの表情を浮かべた岩崎さんでしたが、直後には満面の笑顔に。

また、ご自宅ではご主人とともにアイスクリームを食べることが多いという岩崎さんのために、廣田さんからはアイスクリーム専用スプーンのプレゼントも!

 

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ステージ上とは異なる2人のうれしそうな表情を最後に加えて、今回のレポートは終了です。

 

 

 

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