【レポート】カルテット・スピリタス アーティストinレジデンス~丸子・中央地域~
- 会場
- サントミューゼ
カルテット・スピリタス ~アーティスト・イン・レジデンス~
10/7(金)
ミニコンサート at 西内小学校
ラテン語で新しいエスプリという意味を持つ”SPIRITUS”。その名のとおり、ウィットに富んだトークと才気あふれる演奏で魅了する、サクソフォン奏者4人からなる『カルテット・スピリタス』が、西内小学校でアウトリーチ活動を行いました。
この日は4~6年生を対象にクラスコンサートを開催。西内小学校は4年生の3学期から金管バンドでの活動が始まります。その多くが楽器を演奏するのが初めてだそうですが、これまでにさまざまな大会で受賞をしてきました。
「今日は楽しみですね! それでは、これからカルテットスピリタスの皆さんのコンサートを始めます」という先生の言葉とともに、廊下から会場となる教室に向かってサクソフォンを演奏しながらカルテット・スピリタスの4人が登場。
席の間を縫うようにしながら児童たちのそばへ向かっては、メンバーの1人である松井宏幸さんが、全身でマルか×を表現。
それによって音楽のトーンが一喜一憂するように変化。音とボディランゲージだけで、教室内は笑いに包まれました。
ようやく壇上に到着して、メンバー4人の自己紹介からスタート。
壇上に向かって右側からテナーの松井宏幸さん(呼び名はまつい)、バリトンの東涼太さん(呼び名はりょうた)、アルトの波多江史朗さん(呼び名はしろう)、ソプラノの松原孝政さん(呼び名はリーダー)の4人で、親しみを持ってもらえるようにと呼び名を教えてから1曲目の紹介へ。
「出だしからみんなの近くで大きな音を出してしまったので、さっそく1曲目を演奏します。タイトルは『soon』と言って、もうじき何かが始まるようなワクワクした曲です」。
松井さんがトークを終えると、指揮者のようにリーダーがサックスで合図を取って演奏へ。
軽快なメロディーからはじまるこの曲が始まると、小さくリズムを取り出す児童もいました。
演奏を終えるとサクソフォーンが生まれた歴史について話し、同時代に作られたメンデルスゾーンの「紡ぎ歌」を披露。
つづくトークでは、一番大きな東さんのバリトンサクソフォンのネックやマウスピース、リードを外して、体のパーツに例えながら役割を教えたり、1つに合体させることで音が出る仕組みを教えていきました。
その後は「音楽レストラン」をテーマに、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンそれぞれのサクソフォンを食材に例えて音の違いや役割を考えていきます。
例えば、「『大きな栗の木の下』の曲を演奏しながらカツ丼を作ったら?」などユニークな問いかけに、子どもたちも演奏を聴くだけではなく、音に集中し、さらには想像力を膨らませながら、どの音がごはんなのか、卵なのか、ネギなのか、肉なのかを考えていきました。
誰もが好きであろう“食”を切り口にするという試みを児童たちも楽しみ、近所のお兄さんと話すかのようにノビノビと自由に意見を発言しているのが印象的でした。
あっという間に時間が過ぎ、最後はフランスの作曲家アルフレッド・デザンクロの「サクソフォン四重奏曲第三楽章」をセレクト。
「この曲は交替で主役が変わります。だから、今は誰が主役のパートかな?と考えながら聴いてください」と松井さん。
今日のコンサートで学んだ成果をふりかえるのに適したものでした。
コンサート終了後、今度は児童たちからスピリタスメンバーにお礼がしたいと急きょ体育館へ移動して金管バンドでの演奏を披露。
メンバーはおどろきながらも真剣なまなざしで聴き、「バランス、音、パフォーマンスのどれを取っても良いし、みんなめちゃくちゃかっこ良かったです」と大絶賛でした。
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10/8(土)
ふれあいコンサート at 信州国際音楽村 ホールこだま
プログラム
童謡秋冬メドレー/内田祥子編
ラ・クンパルシータ/G.M.ロドリゲス
弦楽四重奏/L.V.ベートーベン
サクソフォーン四重奏曲より第三楽章/A.デザンクロ
ブラジル暁の大地/岩永知佳
カロライナ・ケークウォーク/A.リード
ロンドンデリーの歌/イギリス民謡
燃えよドラゴンのテーマ/シフリン
熊蜂の暴走/石毛里佳
八木節/群馬民謡
青空が顔を見せた日曜の午後。この日の会場は、上田市街地から少し離れた高台にある「信州国際音楽村 こだまホール」。
お隣の東御市の街並みを一望できるロケーションです。
ホールは、アールを描く天井から壁、床とすべて木で構成された温もりある空間。
ベンチに座布団を敷いて座るスタイルで、ご家族連れやご夫婦のお客様でほぼ埋まっていました。
開演すると、カルテット・スピリタスの4人が客席後方から登場!
演奏しながら客席を進み、小学生の女の子の前で演奏を盛り上げ、別の男の子の前では不協和音で笑わせて……と温度を上げていく4人。
自然と手拍子や笑い声が起き、アットホームなコンサートを予感させます。
「『信州国際音楽村』にちなんで、今日のテーマは『上田で勝手にオリンピックコンサート!!!!』です!」と、テナー・サクソフォン奏者の松井宏幸さん。
世界各国の曲による楽しいプログラムが始まりました。
最初の曲、日本の「童謡秋冬メドレー」では、「紅葉」「赤とんぼ」「雪やこんこ」とおなじみの_曲を厚みのあるハーモニーで披露。
低音のバリトン・サクソフォンからソプラノ・サクソフォンの透明感ある音色に主旋律が移ったりと、一曲の中でも豊かな表情を魅せてくれます。
ピアノや弦楽器向けの曲を編曲することも多く、ベートーベンの「弦楽四重奏」をサクソフォンにアレンジした曲を披露。
そして名曲、デザンクロの 「サクソフォーン四重奏曲」は、絶妙な和音と変化するリズムが楽しく、4人の息の合った演奏に引き込まれました。
「結成12年、この曲を練習し続けて、気づいたら楽譜が変色していました(笑)。いまだに演奏のアイデアがどんどん出てきます」と松井さん。
中国からは、シフリンの「燃えよドラゴンのテーマ」。
「立って演奏します」と立ち上がり、おなじみのあのメロディーが始まった……と思ったら、「ワチャー!」「アタタタタ」と、ブルース・リーを思わせる掛け声まで!
一見コミカルですが、エッジが利いた音色となめらかなハーモニー、妖しい美しさに引き込まれました。
かけ声を担当した松井さんは演奏後、「なんだか上田に来てから喉の調子がいい。空気がきれいだから?お酒がおいしいからかな?」と笑顔。
ロシアのR.コルサコフの「熊蜂の飛行」を編曲した、その名も「熊蜂の暴走」という曲は、ハチの襲来を思わせるスピード感あふれる曲に圧倒されます。
童謡「ぶんぶんぶん」の旋律を入れたり、ハチを追いかけて踏みつける仕草をしたりと、遊び心あるパフォーマンスでした。
終演後のサイン会で目を引いたのが小学生の姿。
アーティスト・イン・レジデンスの活動で、これまで上田の小学校5校を回ってきたカルテット・スピリタス。
その演奏に惹かれた子どもたちが、今日のコンサートに友達や家族を誘って訪れたのでしょう。
中には練習帰りでしょうか、野球のユニフォーム姿の子どもたちも。
みんな嬉しそうに、メンバーと会話やハイタッチを交わしていました。
子どもたちにとって音楽ホールは敷居が高いかもしれませんが、今日をきっかけに音楽を身近に感じてくれたら、と感じたふれあいコンサートでした。
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10/9(土)
マチマチフェスティバル
上田市とサントミューゼがタッグを組んで開かれた音楽フェスティバル『マチマチフェスティバル』。
秋の3連休、上田市の街なかにサントミューゼのレジデント・アーティストをはじめ、ピアノやギターの弾き語りなどさまざまなミュージシャンが登場。
街を音楽で彩りを添えるかのように、気軽に良質な音楽に触れ合えるイベントに、カルテット・スピリタスも出演しました。
11:00 at 犀の角
プログラム:
くまんばちの暴走/石毛里佳
サクソフォン四重奏「赤」よりアルゼンチーナ・ブラジル/岩永知佳
アンダンテカンタービレ/チャイコフスキー
枯葉/コスマ
てぃんさぐぬ花/沖縄民謡
四重奏曲/デザンクロ
5つのカメオよりケークウォーク/アルフレッドリード
開演前から「犀の角」の前で並ぶ人たち。
話を聞くと、大学生で部活でサクソフォンを演奏をしている人から、新聞でイベントを知ったという赤ちゃん連れのお母さん、学生時代に吹奏楽部に在籍していた男性などさまざま。
いづれも普段はコンサートホールに足を運ぶ機会が少ない人たちですが、いつも歩く街なかでプロの音楽が聴けるならと訪れていました。
スタートは途中でくまんばちが飛んでいる音色に合わせて波多江さんがはちを追い、つぶすジェスチャーを交えた「くまんばちの暴走」から披露。
曲のコミカルさと、まるでコントのようなメンバーの動きに、コンサートながら笑いが生じました。
その後も訪れたさまざまな年代の方に楽しんでもらえるようにとクラシック、民謡などバリエーションに富んだ曲を披露。
終演後も観客1人ひとりと感想を聴くなど、小さなスペースだからこそ生まれる交流をアーティスト、観客ともに楽しんでいました。
16:30~ at HanaLab.UNNO
プログラム:
オオシャンゼリゼ/ディーガン
くまんばちの暴走/石毛里佳
ロンドンデリーの歌/アイルランド民謡
ブラジル/岩永知佳
5つのカメオより・ケークウォーク/リード
(田中さん呼び込み)
青春の輝き/森田一浩
サクソフォビア/ヴィードフ
美女と野獣/アラン・メンケン
日本のサクソフォン界を牽引するベテラン、田中靖人さんをゲストに迎えてコンサート。
前半はカルテット・スピリタスのみで演奏し、クラシックからボサノヴァまでバラエティー豊かな曲で盛り上げました。
後半で田中靖人さんが登場して披露したのは、カーペンターズの「青春の輝き」です。
人のハーモニーに、田中さんの艶やかな音色が歌声のように乗ります。
心に染み入る演奏に、会場から割れんばかりの拍手が送られました。
「駆け出しの頃、田中さんが紹介してくれた仕事をきっかけにステップアップできました。今日は一緒に演奏できて本当に嬉しい」と、テナー・サクソフォン奏者の松井宏幸さん。
R.ヴィードフの「サクソフォニア」は、古き良きアメリカを思わせる明るいメロディーとリズムで踊り出したくなるほど。
田中さんが主旋律を奏で、4人がリズムを刻んだり音を乗せたりしながら一枚の絵を描くように演奏していきます。
5人も体を揺らして、とても楽しそう。
アンコールはスピリタスの波多江さんが結婚式で奥様とメンバーで披露したという、A.メンケンの「美女と野獣」の5重奏バージョンを演奏。
秋の夜にふさわしい、しっとりとしたハーモニーを聴かせてくれました。