サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】三原未紗子アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.50 

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会場
サントミューゼ

4月15日(木) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

5月23日にサントミューゼ大ホールで開催する「群馬交響楽団 上田定期演奏会 -2021春-」。ソリストとしてお迎えするのが、国内外のコンクールで数多の受賞歴があるピアニストの三原未紗子さんです。この日は公演をより深く楽しんでいただくため、三原さんによるアナリーゼワークショップが行われました。

 

上田を訪れるのは今日で2回目という三原さん。

「上田のみなさんはとても温かくて、食べものもおいしくて。駅に着いたとき、なんとなく『ただいま』と言いたくなりました」と、笑顔で挨拶。

 

演奏会のプログラムから選んだアナリーゼのテーマは、「ベートーヴェン 『ソリストから見た』協奏曲 第1番 Op.15」。ベートーヴェンが遺した5つのピアノ協奏曲の中でも、第1番は作曲意欲に燃えたぎっていた20代の頃に書かれたものです。

 

 

三原さんは冒頭部分を演奏すると、

「シンプルでありながら、第1番とは思えないほど音楽への熱意が強く感じられますね」とコメント。

 

第1楽章の自筆譜もスクリーンに登場。一度書いた箇所をベートーヴェンがペンで塗りつぶし書き直したリアルな部分も見ることができました。

 

第1楽章の特徴は、第1主題のモチーフが形を変えて何度も登場する点。会場でオーケストラ演奏のCD音源を流してみると、確かに「ターン、タンタンタン」というフレーズが何度も調を変えて現れます。

「いい曲ですね・・・・・」

曲を聴いて思わずつぶやいた三原さんの言葉に、会場内から小さな笑いが起こります。

 

「第1楽章は、ピアノ・ソロが始まるまでオーケストラ演奏が3分ほどあります。舞台に上がっていると、その3分はあっという間。空気や床の振動を通じて、オーケストラの音を空間全体で感じることができるからなんです」

 

ピアノ演奏が始まる部分を実際に弾いてくれました。美しく、ダイナミックで絢爛。オーケストラと合わさった時にどのような音の重なりと広がりを見せるのか、楽しみになります。

 

「一人で練習していても、頭の中で常にオーケストラが鳴っているかのような不思議な感覚。それが、この曲を練習する独特な時間ですね」

 

ピアノの難所として有名なのが、第1楽章の再現部に入る直前のオクターブのスケール(音階に沿って弾くこと)です。「とても難しい。ベートーヴェンの意欲的な挑戦なのかもしれません」と、実際にその部分を弾いた三原さん。速く、めくるめく美しいフレーズに圧倒されます。

「音楽的にも幅が広がるので、ここはばっちり決めたいところです。本番に向けてもっと練習しようと思います(笑)」

 

第2楽章は、優しく平和を感じさせるイメージの変イ長調。曲全体はハ長調なので、変イ長調とはやや関係性が遠いそうですが、

「第2楽章冒頭の左手は2分音符と4分音符で、第1楽章の冒頭とモチーフがまったく同じ。だから、なんとなく親和性があるんです。さすがベートーヴェンだなと思いますね」

 

 

この曲には、「新しいもの好き」だったベートーヴェンらしさも表れています。現代のピアノは鍵盤数が全部で88ありますが、この曲ができた当時のピアノは61鍵。その音域をフルに活かした部分が、第2楽章にあるのです。

 

「ベートーヴェンは、新しい楽器からインスピレーションを受けた作品をたくさん残しています。この曲では高音部分をたくさん使ったり、『こんなに弾けるんだぞ』と音域を見せたりするような技法もふんだんに使っています」

 

そう言って、楽譜を見せながらその部分を演奏してくれました。確かに、高音のきらびやかさが存分に表現されていることが分かります。

 

最後の第3楽章は、第2楽章終盤からガラリと雰囲気が変わります。実際に冒頭を演奏すると、弾むような、踊り出すような明るい音色が印象的。

 

「私がこの曲を大好きになった1番の理由が、この第3楽章。特に、ピアノの出だしからオーケストラに受け渡す瞬間が好きですね。舞台の床板の振動やオーケストラのみなさんの呼吸を体感して、圧倒されます」

 

さらに曲が進むと、行進曲風やエキゾチックな曲調などさまざまな要素が登場します。実際に演奏しながらポイントごとに手を止め、逐一解説してくれた三原さん。「ベートーヴェンの作曲に対する冒険心や多様性がよく表れていると思います」と話しました。

 

「昨年はこの群馬交響楽団の定期演奏会が中止になり、仕方ないとは思いつつも、やはり悲しかったです。だから今回の公演を行うことができて、救われたような気持ちですね。ピアノ協奏曲は、ピアニストにとって憧れ。何十人ものオーケストラの方と一緒にリハーサルを重ねて、演奏できる幸せを身にしみて感じています。みなさんの空気や呼吸の使い方から勉強させてもらって、それが自分の感覚や呼吸になっていくんです」

 

 

そう笑顔で話してくれた三原さん。当日はオーケストラとピアノが響き合い、どのような世界を見せてくれるのでしょうか。5月23日の演奏が楽しみです。

 


 

 

5月23日 群馬交響楽団 上田定期演奏会 – 2021 春 -の公演情報はこちら