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【レポート】群馬交響楽団 上田定期演奏会 -2019夏-

みる・きく
会場
サントミューゼ

群馬交響楽団上田定期演奏会 ―2019夏―

響き渡るチャイコフスキー(第550回群響定期演奏会プログラム)

 

2019年7月14日(日) 18:00開演  サントミューゼ大ホール

 

指揮:小林研一郎(群馬交響楽団ミュージック・アドバイザー)

ヴァイオリン:木嶋真優

 

平成27年度から継続して実施している群馬交響楽団(以下、群響)のコンサートは、今回から「上田定期演奏会」として開催することになりました。

4月からミュージック・アドバイザーとして就任した指揮者・小林研一郎さん率いる群響の、初の上田公演でもあります。

 

“炎のコバケン”が愛称の情熱的で真摯な小林さんの指揮と、群響の音楽がどのように化学反応を起こすのか?

大きな期待が寄せられる公演とあって、大ホールには約1000名ものお客様が詰めかけました。

 

今回はチャイコフスキーの作品のみで、前半は「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35」、後半は「交響曲 第4番 ヘ短調 作品36」です。

 

ソリストは、小林さんと何度も共演している木嶋真優さん。9歳でオーケストラデビューし、12歳で音楽留学のためにドイツに渡った木嶋さんは、現在、日本とヨーロッパを拠点に幅広く活動をしている気鋭のヴァイオリニストです。

 

1曲目は、数あるヴァイオリンコンチェルトの中でも、人気も演奏回数も常に上位にくる作品です。

今でこそ高い評価を得ていますが、作曲当時はヴァイオリニストから「演奏不能だ」と断られ、初演も悪評紛々という惨憺たるものでした。

しかし、初演でソリストをつとめ、作品を高く評価していたブロツキーが演奏を重ね、徐々に真価が理解されるようになったという経緯があります。

 

第1楽章 アレグロ・モデラート

流麗な序奏は徐々に高まりをみせ、音が途切れたところからカデンツァ風のヴァイオリンソロに入ります。

体を大きく使う弓づかい、正確なテクニックと情感がにじみ出る木嶋さんのヴァイオリンに、聴衆は引き込まれていきます。

 

 

第2楽章 カンツォネッタ:アンダンテ

木管楽器とホルンの序奏から、哀愁を帯びたヴァイオリンソロに続きます。第1楽章とは対照的に、全体的に静かで内省的な雰囲気が漂います。

そのまま、切れ目なく第3楽章に突入していきます。

 

第3楽章 フィナーレ:アレグロ・ヴィヴァーチェシモ

ロシアの民族性が豊かに感じられるロンド形式。序奏のあとのヴァイオリンソロによる第1主題は、民族舞曲トレパックに由来しており、激しいリズムが特徴です。第2主題に移り、再び第1主題を断片的に奏で始めると、徐々に快活さを取り戻しはじめます。

曲はふたつの主題を繰り返しながら華々しく展開し、最後は第1主題をもとに熱狂の中で終わります。

 

万雷の拍手が鳴り響き、手を高く上げて拍手するお客様の姿もあちこちで見受けられました。

 

 

都合3回のカーテンコールを受けて、木嶋さんがヴァイオリンで応えます。

曲は「ふるさと」。

木嶋さんの大胆な変奏がほどこされ、先ほどのコンチェルトの主題を思わせる一節も顔を出します。

ホール中を魅了する圧倒的な独奏が終わり、さらに2回のカーテンコールを経て前半が終了しました。

 

 

後半は、「交響曲 第4番 ヘ短調 作品36」。奇しくも、前半のコンチェルトと連番になっている作品です。

この曲が完成した1878年の前年、チャイコフスキーはごく短い結婚生活と離婚を経験しました。冬のモスクワ川に入水(未遂)するほど失意の底にあった時期に書かれた曲です。

 

第1楽章 アンダンテ・ソステヌート~モデラート・コン・アニマ

ホルンとファゴットのファンファーレではじまる冒頭は、チャイコフスキー自身が「われわれの幸福への衝動を妨げる運命の力です」と説明した“運命の動機”と名付けられています。この動機はこの後も突然現れて、楽曲のキャラクターを決定づけています。

 

第2楽章 アンディーノ・イン・モード・ディ・カンツォーナ

「歌うようなモードで」の指定通り、オーボエがメランコリックな主題を提示します。

 

第3楽章 スケルツォ:ピチカート・オスティナート:アレグロ

前半、弦楽5部は弓を使わずに弦をはじくピチカート奏法のみで奏されます。ピチカートの躍動感は非常に効果的で、この楽章全体に軽やかさとユーモアがもたらされています。

 

第4楽章 フィナーレ:アレグロ・コン・フォーコ

シンバルと大太鼓によって、賑々しく最終楽章に突入します。第2主題はロシア民謡「野に立つ白樺」を引用。「民衆の祭りの描写」とチャイコフスキーが言うように、フィナーレにふさわしい華やかな流れが続きます。
最後の部分で、その流れを断ち切るように、短調の“運命の動機”がトランペットで吹き鳴らされます。
陰が差した直後、輝かしいテーマに戻りラストへ。

 

 

 

大きな拍手に、お客様の感動と興奮が手に取るように伝わってきます。

 

小林さんは、「大勢のお客様のオーラが伝わって、音の輝きになりました」とお客様に感謝の気持ちを伝えました。
このままお別れは寂しいのでと続け、「群響の炸裂する音の群れをもう一度味わっていただきたいので、交響曲の最後の1分30秒を再びやります」と話し、オーケストラに向き直ります。

 

群響のパワーを体感できるフィナーレの再演に、客席はふたたび熱を帯びました。

 

 

今回、終演直後の大ホールホワイエでは、「群響ふれあいトーク」と題したミニコーナーを設けました。

首席チェロ奏者の長瀬夏嵐さん(中野市出身)と、ヴィオラ奏者の太田玲奈さん(上田市出身)のお二方が、お客様に向けてオーケストラの魅力やメッセージを伝えていました。

 

 

 

コンサートの感想をお客様に伺いました。

ヴァイオリンを背負っていた小学2年生の男の子は、「コンチェルトの第3楽章がよかったです」と、奏者ならではの感想を伝えてくれました。

群馬から駆け付けた女性3人は「今回の定期演奏会は、高崎も東京も行きましたが、サントミューゼの響きがいちばんでした」「木嶋さんのヴァイオリンを包むようにオーケストラが鳴っていて、相性がいいと感じました」と、笑顔を浮かべて会場を後にしました。

 

次の上田での群響コンサートは、11月24日(日)です。

井上道義さんの指揮で、武満徹とブルックナーの楽曲を定期演奏会プログラムとして披露します。

ぜひご期待ください。

 

 

 

【プログラム】

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35

チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 作品36