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【レポート】川久保賜紀〜アーティスト・イン・レジデンス〜

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世界三大コンクールのひとつともいわれる「チャイコフスキー国際コンクール」のヴァイオリン部門において、最高位入賞という経歴をもつヴァイオリニスト・川久保賜紀さん。

今年度のアーティスト・イン・レジデンスでは、上田市の北東側に位置する神科・豊殿地域を担当しています。

そんな川久保さんとピアニストの江崎昌子さんによるアウトリーチや地域ふれあいコンサートを6月に行いました。

 

 

 

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6月27日(月)アウトリーチ at 豊殿小学校

 

この日は、5年生21人を対象としたアウトリーチを行いました。

 

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まずは川久保さんが、「今日は皆さんと過ごせることを楽しみにしてきました。音楽を通しておもしろさを感じられるような曲を用意してきましたので、一緒に楽しみましょう」と挨拶。
そして、1曲目にエルガー「愛の挨拶」を演奏し、作曲家の生い立ちや曲が生まれた背景のほか、ヴァイオリンの演奏技法などを説明しました。

生徒たちは、普段触れ合う機会が少ないヴァイオリンや海外在住アーティストである川久保さんに興味津々の様子です。

 

続いて、クライスラーの「美しきロスマリン」と「中国の太鼓」を演奏。

「中国の太鼓」はピアノで太鼓の音を表現した曲で、生徒たちだけでなく担任の先生もヴァイオリンの弓の速さに目を奪われ、身を乗り出すように演奏に聴き入っていました。

 

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次に、ヴァイオリンとピアノの楽器の仕組みを、川久保さんと江崎さんがそれぞれに説明。

生徒たちは見慣れないヴァイオリンの構造や、意外と知らないグランドピアノに備わる3つのペダルの違いを興味深そうに眺めていました。

 

続いては、江崎さんがピアノソロの時間。

江崎さんは、ショパンの「ノクターン第2番」を演奏。

生徒たちは左右のペダルを巧みに使い分ける江崎さんの足の動きにも注目し、音の響きの違いをじっくりと聴き分けているようでした。

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そして、再び川久保さんが登場。

ファリャの「スペイン民謡組曲」と、モンティの「チャルダーシュ」を演奏し、全6曲のプログラムは終了。
それぞれの楽曲にヴァイオリンの特徴的な技法が用いられていることを丁寧にわかりやすく説明した川久保さん。

生徒たちからは「ヴァイオリンにいろいろな弾き方があることを知った」「特に『中国の太鼓』は演奏が早くて驚いた」という感想があがっていました。

 

最後に、実は10年来の川久保さんの大ファンで、過去に東京で開催されたコンサートにも出かけたことがある音楽の先生が、「精霊が降ってきたように、いつもと空気が違いますね。余韻に浸りたい気持ちです」と感想を述べ、今回使用されたヴァイオリンが1700年代に制作された貴重な楽器だったことも紹介。

先生の興奮や感激が生徒にも伝わり、温かい雰囲気が室内に満ちていました。

 

6月29日(水)アウトリーチ at 上田市立第五中学校

 

この日の対象は、2年3組と3年3組の生徒です。

登場したふたりは、エルガー「愛の挨拶」を演奏。
プログラムは、豊殿小学校のプログラムと同様の全6曲。

豊殿小学校と同じように、演奏だけでなく、作曲家の生い立ちや曲が生まれた背景、ヴァイオリンの技法や楽器の仕組みなども説明されました。

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ヴァイオリンとギターの違いや、ピアノとの相違点なども解説した際には、「1mmでも穴や弦の位置が違うと音が変わってしまう繊細なところが弦楽器のおもしろいところ」と、ヴァイオリンの魅力を紹介。

また、グランドピアノの3つのペダルについて説明をした江崎さんは、「ペダルの深さでも音が変わってしまうピアノは、湖上の白鳥のように足もたくさん動かしているんですよ」とユニークな紹介をしていました。

 

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演奏後、生徒たちからは「ヴァイオリンの魅力が伝わってきて、音がすっと心に入って気持ちよかった」「川久保さんと江崎さんがお互いを信頼していて、きれいな音楽が生まれていると思った」という感想が。

 

普段なかなか触れる機会が少ないプロの演奏を間近で体験することで、音楽の美しさや魅力だけでなく、演奏へと向かう姿勢も学べたアウトリーチとなりました。

 

 

そして、最後にスペシャルな演奏もありました。

ピアノを習っている男子生徒が、周囲の後押しから皆の前でショパンの「ノクターン第20番嬰ハ短調 遺作」を披露したのです。

 

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川久保さんと江崎さんは感動した様子で一度戻った控え室から戻って、音楽室の後ろから見守り、演奏後、大きな拍手を送っていました。

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さらに江崎さんは「この曲は映画『戦場のピアニスト』で使われている曲で、ぜひ映画も観てみてください。そして、これからもピアノを頑張って続けてください」という応援の言葉をかけていました。きっと、川久保さん、江崎さんの演奏を間近に観て、演奏したい衝動にかられたのかもしれません。

 

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6月30日(木)ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.21 上野丘公民館

 

上野が丘公民館で行われたコンサートは、開場時間前から長い行列ができました。

駐車場には県外ナンバーの車も見られ、多くのファンが支持される川久保さんの人気の高さが伺えました。

客層は老若男女幅広く、約170人が来場。およそ1時間のコンサートを楽しみました。

プログラムは、アウトリーチの演目を含む以下の7曲です。

 

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・エルガー:愛の挨拶
クライスラー:美しきロスマリン

・クライスラー:中国の太鼓
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
・ショパン:ノクターン第2番 変ホ長調 作品9-2(ピアノソロ)
・ファリャ:スペイン民謡組曲
モンティ:チャルダーシュ

 

 

最初にエルガー「愛の挨拶」を演奏した川久保さんは「今日はいろいろな国の作曲家を用意してきました」と挨拶し、この曲が恋人へのプロポーズのために作られたという背景を説明。「リサイタルの最初にぴったりな_素敵な曲です」と紹介をしました。

 

アウトリーチでは演奏されなかったバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」は、作曲家がルーマニアを旅した時に作ったそうで、今回は短い組曲のうちの3曲を演奏。

 

1曲ずつルーマニアの独特の踊りが表現されていて、ルーマニアの風景が浮かんでくるようでした。

 

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また、ファリャの「スペイン民謡組曲」は、スペイン各地の子守唄や民謡などが7曲で構成された組曲で、ヴァイオリンとピアノのための編曲は6曲構成になるのだそう。川久保さんはこれまでにギターやチェロと演奏したことがあり、「いろいろな編成があっておもしろい組曲です」と、この組曲を紹介していました。なお、アウトリーチでは組曲のうち、最後の1曲のみの演奏でしたが、今回は6曲すべてを演奏していました。

 

途中には、今回、初めて訪れたという上田での滞在エピソードも披露されました。

「自然に囲まれていて、食べ物もおいしくて大好きな温泉もあって、こんなにいい街はない」と川久保さん。

蕎麦は4日間の滞在で2回も食べに行ったそうで、会場からは笑いが起こっていました。
アウトリーチについても「生徒たちと一体感を感じ、音楽に興味をもってもらえたことが伝わってきました」と紹介。

アウトリーチに参加した生徒がこの会場にも来場していることがステージ上からもわかったようで、感謝の言葉を述べていました。

江崎さんも「生徒と近い距離で表情をうかがいながら演奏ができる貴重な経験ができ、今日帰るのが名残惜しい」と、この日に上田を去ってしまうことを残念そうに話していました。

 

最後に、モンティ「チャルダーシュ」を演奏した川久保さんは「短い時間でしたが、皆さんと熱い時間が過ごせてうれしかったです。秋(11月18日)にまた江崎さんとサントミューゼでリサイタルを開催するので、楽しみにしていてください」と挨拶。拍手の音は鳴り止まず、アンコールとしてクライスラーの「愛の悲しみ」が演奏されました。

 

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その後、さらに長い拍手が沸き起こり、お二人は再登場。クライスラーの「愛の喜び」が演奏され、演奏者のふたりも観客も、誰もが大満足の表情を浮かべていました。

 

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